【実験・体験】車椅子の介助:「急な坂道」とはどれくらいなのか

急な坂道の急とはどれくらいか 疑問・悩み

ご利用者さんや介助者の安心・安全のため、手動式の車椅子を利用している人の介助では、「急な坂道では、進行方向と反対を向いて介助者から下りる」のがセオリーです。

実は、私にはある疑問がありました。

「急」とはどれくらいなのか?

それがわかれば、普段の業務に活かせるのではと考え、実験してみることにしました。

この記事は、

・「急な坂道」とはどれくらいか気になっている人

・「数字」と「感覚」を結びつけて理解したい人

・普段の業務に活かせる記事を読みたい生活支援員さん

におすすめです。

実験の方法

家にあった不要な木材を使って坂道を作り、実際に車椅子を使って、勾配を体験します。

勾配は%で表します。「100メートル進んだ時に1メートル登る」のが「勾配1%」なので、今回は「2メートル進んだ時に2センチ上がる」状態にして、1%ずつ勾配をつけていきます。

「2メートル進んで2センチ上げる」理由ですが、単純に家にあった材木が、2センチと4センチの厚さだったからです。実験のやりやすさも大事です。

自宅の庭で行う簡易な実験ですが、実際に車椅子を利用している人の立場で「何%の勾配をどう感じるか」を体感できるのは、大きなメリットがあると感じています。

※勾配の計算は「TOM’s Web Site」様の「勾配計算」を使わせていただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。

※ヘルメットと膝パッドを装着し、安全面にも配慮して実験を行いました。

※実験には誤差があること。ならびに、記事内の感想はあくまでも個人の意見であることをご了承下さい。

【準備】坂道を作る

家にあった材木で、2メートル30センチくらいの坂道を作りました。

組み合わせて、添え木をして、ビスで止めて完成。下が砂利道だったので、使わなくなったレンガブロックを下に敷き、水平を出しました。

車椅子は手動の介助式。アルミフレームのベーシックなタイプです。

【実験】勾配をつける⇒車椅子を使って体験する

最初は0%、勾配なしの状態から始めました。

車椅子に乗った視点、介助者としての視点ともに「平坦な道」という感覚でした。ここからは傾斜をつけていきます。

1〜3%

最初は2センチ上げ、「勾配1%」を作りました。横から見た感じは「坂になっている」という感覚はありません。

車椅子に乗った視点、介助者の視点ともに「勾配がついていると聞かされていれば、何となくそう感じる」くらいでした。

続いて4センチ上げて、「勾配2%」。横から見ると「坂になっている」のがはっきりと分かりますが、「急」とは感じません。

車椅子に乗った視点、介助者の視点ともに「はっきりと勾配がついていること」がわかりました。勾配1%との違いとして、車椅子に乗った状態でブレーキを解除すると、歩いているよりもゆっくりなスピードで車椅子が動き出しました。

さらに2センチ追加して、6センチ上げた「勾配3%」。2%同様、横から見ると「坂になっている」のがはっきりとわかりますが、「急」とは感じません。

車椅子に乗った視点では、ブレーキをしていない状態だと自然に下ってしまう状態がさらに強くなりました。介助者視点では、「はっきりと坂道であることがわかるが、後ろ向きになる必要はないな」という判断をするくらいでした。

※ここに関しては、介助者の体格などによって考え方が分かれると思います。ちなみに私は、175センチ、65キロです。

4〜6%

体感が大きく変わったのは「勾配4%」、8センチ上げの状態の時です。

車椅子に乗ると、はっきりと「身体が下に向かっていく」感覚になりました。ブレーキをかけ、その場に止まっているんですが、滑ってしまうのではないかと不安になりました。

介助者視点でも、明らかに「坂になっている」のがわかったので、これくらいの勾配から進行方向と反対を向いて下りることを考える必要があると感じました。

さらに2センチ追加して、10センチ上げた「勾配5%」を作りました。横から見ても「急な坂」と感じます。

坂の材質が板だったこともありますが、車椅子に乗った時に少しタイヤが下に滑ってしまう事がありました。下る時は反対を向いていないと怖いと感じました。介助者目線でも、間違いなく進行方向と反対を向いて下りる判断が必要です。

さらに2センチ上げ、地面から12センチ上げた「勾配6%」でも実験しました。

車椅子を坂の上にセットしてから乗る、という手順でやっていましたが、このあたりから傾斜がある中で乗るのが怖いと感じ始めました。

試しに前向きの状態でブレーキを解除したところ、歩くよりも速いスピードで坂を下っていきました。実際の現場で起こっていたらと思うとゾッとします。

7〜10%

自分の中で「急な坂」の結論は出ていましたが、さらに実験を続けることにしました。

地面から合計14センチ上げ、「勾配7%」。このあたりから、特に車椅子に乗った状態では、ハンドリム(タイヤに付いている漕ぐところ)を持っていないと不安になりました。

さらに2センチ上げて、「勾配8%」。これくらいの高さになると、ブレーキをかけているかどうかに関係なく、坂道にいる事自体が不安になります。実験だとわかっていてこの怖さなので、実際にはもっと怖さを感じると思います。

もう2センチ追加し、合計18センチ上げた「勾配9%」。2センチ刻みですが、確実に怖さが増しています。

今回は1人で実験していたため、介助者目線になる時は、誰も乗っていない車椅子を操作していましたが、「人が乗っている」と仮定すると、相当な負荷がかかるというのがはっきりと分かりました。

最後に地面から20センチ上げた「勾配10%」でやってみました。

可能であれば、避けれるものなら避けたいと思うほどの角度です。私自身が車椅子を押すぶんには、そこまで負担は感じないかもしれませんが、ご利用者さんの体格次第ではかなり辛く感じるかもしれません。

【考察】安心・安全のために

結論から言うと、勾配4%くらいから「急な坂道」と感じ、6%を超える辺りからはっきりと「進行方向のまま下るのは怖い」と感じるようになりました。

また、車椅子に乗ったときのほうが、横から見る時よりも怖く感じました。

ご利用者さんと介助者の体格差や、路面の状況など、様々な要因があるため、具体的に何%でこの行動、と決めることはできません。ですが、1つの目安として

どちらかが少しでも不安を感じたら、迷いなく進行方向と反対を向いて下りる

のが好ましいでしょう。

まとめ

今回は『「急な坂道」とはどれくらいなのか?』というテーマで、実際に勾配のある坂道を作って実験をしました。

  • 4%くらいの勾配から、少しずつ怖さを感じ始めた
  • 「ブレーキをかけていても不安になる」という経験ができた
  • ご利用者さんと支援者、どちらかが少しでも不安に感じれば、進行方向と反対を向いて下りる

実験そのものは簡易なもので、そこまで厳密なものではなかったかもしれません。ですが、何%の勾配をどのように感じるかを知ることができたのは、貴重な経験でした。

あくまでも個人の感想であることを改めてお伝えしたうえで、この実験が何かの参考になれば嬉しいです。

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