『たかさんと私』#1 普段は意識しないクラスメイト

たかさんと私

たかさん。確か今年で32歳。私、確かに今年で41歳。出会いは2011年、そこから干支1周以上のあいだ関わりがありますが、彼との物語はそれ以上の密度でした。

私は生活介護事業所『ぴーすてらす』で働く生活支援員。重度の障害がある人が通う施設で、日中活動や生活動作のサポートをするのが私の主な仕事です。トイレ介助や食事介助、ウォーキングの付き添いや、レクリエーション、外出活動の引率をすることもあります。

私の介護観に大きな影響を与えてくれたたかさんですが、彼との出会いは「『ぴーすてらす』に、たかさんが利用者さんとしてやってきた」という、いたってシンプルなものでした。

たかさんは自分で歩くことができます。多少こぼしてしまうことはあるものの、1人で食べることが可能で、トイレも自分から行くことができます。自分の気持ちを言葉で伝えることが苦手ですが、付き添いや見守りがあれば、ある程度自分のペースで過ごすことができるのがたかさんの強みです。

椅子に座った状態で、両手を太ももに挟み、体を前後にゆらゆらするのが定番の動作です。とても穏やかな表情で、時々声を出しながら素敵な笑顔を見せてくれることもあります。

たかさんが施設の利用を始めた当初、私は送迎などで同じ車に乗ることはあっても、あまり深く関わることはありませんでした。タイミングによっては、ほとんど話しかけることなく1日が過ぎていくこともあり、別のご利用者さんをケアしながら、「あ、ゆらゆらしているな」と思いながら見ていました。

これ、「最初は意識していなかったクラスメイトが、いつの間にか気になっていた」という恋愛ドラマみたいなフラグが立つやつだなと、今となっては思います。

現場に出ると、「事前に資料でお伺いしていた情報」だけでは見えてこない、ご利用者さんの様々な一面を見ることができます。たかさんも例外ではありません。

たかさんの特徴を一言で表すなら「思い入れがとんでもなく強いタイプ」です。

人間誰しも、思い入れの1つや2つはあると思います。他人から見れば大したことがないことでも、当の本人からしてみれば真剣そのもの。お風呂で体を洗う順番や卵かけご飯の食べ方に独特のマイルールがある人、いませんか?

たかさんにとって強い思い入れのある行動は、「コーヒーを飲む」「ペットボトルの中身をどんな事があっても、一滴残らず飲み干したい」「手を洗い始めると、止まらなくなってしまう」などがあります。

たかさんは、1〜2語文の会話と「あ〜」や「う〜」という言葉を伴う指差しで、自分のしたいことや行きたい場所を伝えてくれます。持っている言葉の数は決して多くないものの、上手く噛み合えば言葉のキャッチボールが1往復程度成立します。

施設では普段、穏やかに過ごしています。ですが、1度何かが気になってしまうと、途端に目つきが鋭くなり、普段よりも大きな声で「あ〜!」「うわぁ〜!」と言いながら、気になるものめがけて一直線に向かっていってしまいます。

周囲の状況に関係なく動いてしまうので、たかさん自身だけでなく、周囲のご利用者さんを巻き込んでしまう恐れがある非常に危険な状況です。

たかさんと出会った当初の私は、気になる気持ちを抑えることができない彼を前に、どうしていいかわからず、ただオロオロするばかりだったことを覚えています。

施設の余暇時間に、パズルをしたりお散歩したり、絵を描いたりして笑顔で過ごしていた彼の穏やかな日常が、ある日を境に一変してしまいます。

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