付き添い初日、『陽向(ひなた)総合病院』整形外科の5階、235号室に向かう私の足は少し震えていました。エレベーターのドアが開くと、緊張と不安が入り混じった感情はピークを迎えます。
「あの時何もできなくてごめんなさい。退院するまでお手伝いしたいです。」
普段なら言いたいことをグッと飲み込んでしまう私でしたが、入院しているたかさんに付き添うことになった初日、自分の素直な気持ちを伝えました。
そして、病室にいたお母さんにも、施設の対応について何の意見もできなかったことをお詫びし、入院中のケアを担当させてほしいとお願いしました。
下げた頭の上から水をかけられようとも、もう二度と引き下がりたくない。そんな不退転の決意が届いたのか、お母さんは「お願いします」と、私が中心となって日中のケアに入ることを認めてくれました。
ベッドに横になり、苦しそうに肩で息をするたかさんを前にすると、自分の無力感というか、申し訳無さのようなもので心が一杯になります。たかさんは、言葉のキャッチボールが得意ではありませんが、気持ちは必ず届くと信じて勇気を振り絞ったことを覚えています。
嫁さんにプロポーズしたときよりも緊張しました。いや、ホントに。
ご家族さんからのご意見なども踏まえ、私の1日は次のような流れになりました。
・朝、お母さんとバトンタッチする
・日中、病院から許可された身の回りのお世話や、医療関係者さんとの意思疎通をサポートする
・夕方、お母さんとバトンタッチする
ご家族さんの立場からすると、「『ぴーすてらす』で怪我をしたたかさんを、そこで働く職員に託す」形になるわけです。今すぐには無理でも、「託してよかった」と思ってもらえるような仕事がしたい、そして何より「退院までお手伝いする」というたかさんとの約束を守りたい。
たかさんに告白(?)し、お付き添いをスタートさせた私ですが、たかさんやご家族さんへの申し訳なさはずっと消えないままでした。ベッドには苦しそうに寝ているたかさんがいて、ご家族さんとバトンタッチしてからの時間を一緒に過ごします。
病室での付き添いが始まることになったときから、私の心の片隅には、ずっと気になっていることがありました。
「ご家族さんが戻ってきたら、病室とはいえ『家族の時間』がやってくる。引き継いだ時に病室に私がいた痕跡があったら、施設の人が家にいるみたいで不快に思ってしまうかもしれない。」
そして、たかさんは思い入れがものすごく強いタイプです。私の何気ない行動が、たかさんのルーティンに入り込んでしまうことは、彼自身にもご家族さんにもプラスにはなりません。私との過ごし方をご家族さんに求めてしまうことになれば、彼自身だけでなくご家族さんの心理的な負担が増えてしまいます。
私が出した結論は、「可能な限り支援の痕跡を残さないこと」でした。使ったものは可能な限り元の位置に戻し、ゴミは部屋の外のゴミ箱を使うことを徹底しました。
徹底しすぎて、「食べ物の匂いを残さないために、昼食に白いご飯だけ持ってきて食べる(ふりかけの使用は可)」という選択までする必要があったのか、なかったのか…。
思い入れがとんでもなく強いたかさんと、いろいろ気にしすぎてしまう私のお付き合い…もとい、お付き添いにおける、私の忍者のような振る舞いはこれから少しずつお話ししていきます。
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