『たかさんと私』#6 病室という世界にあったもの

たかさんと私

たかさんは、ご家族さんと過ごす時間も含め、24時間サポートが必要です。そのため陽向総合病院では、2人部屋に入院し、2台あるベッドのうちの1つをたかさんが、もう1つをご家族さんが使っていました。

決して高くない天井、ベッド2台と机を配置すれば、車椅子がようやく転回できるくらいの広さの病室が、たかさんが過ごす世界です。枕元のスペースには、自宅から持ってきたCDプレーヤーとCD、本が数冊置かれています。

ご家族さん用のベッド周辺には、着替えやタオルなど、たかさんの視界に入ると気になって仕方がなくなってしまうものが、目に入らないような形で所狭しと置かれています。

入院2週間めになると、たかさんから話しかけてくれることも増え、少しずつですが確実に、たかさんとの距離は縮まっていることを感じていました。私との意思疎通が円滑になればなるほど、たかさんと外の世界をつなぐ手助けになります。

そして、病室にはもうひとり相棒がいました。名前は「ガーコ」。大人の手のひらに収まるくらいのアヒルのぬいぐるみです。

たかさん、時々「ガーコ」と伝えてくれることがありました。いつもどおりのキラキラした目で私を見つめ、「さあ、遊んでくれよブラザー」と言っている気がして仕方ありません。

たかさんの気持ちは伝わったので後は遊ぶだけなんですが、肝心の「どうやって遊ぶのか」がわかりませんでした。「どうやって遊びますか?」と聞いてみましたが、「ガーコ」と返ってくるものの、はっきりした答えはわからずじまいです。

今までの関わりの中から、たかさんの想定とは違うアプローチをした場合、否定のアクションが返ってくることがわかっています。もし違ったら「違う」と言ってくれる安心感は大きいです。

私は意を決してガーコを手に取り、「やあ! 僕ガーコだよ」とやってみました。

たかさん、無反応でした…。否定こそされませんでしたが、バッチリ正解というわけではなさそうです。

別の日、再び「ガーコ」とリクエストをもらったので、思い切って「オッス! おらガーコ!」とやってみました。

たかさん、無反応でした…。否定こそされなかったものの、これもバッチリ正解ではないようです。

そのまた別の日のリクエストが来たときには、「ハァイ! マイネームイズ ガーコ! イェーイ!」と、精一杯全力でふざけてみました。

たかさん、無反応でした…。これに関しては否定のアクションがほしかったなと思うくらい恥ずかしかったです。

ガーコに関するやり取りは、たかさんが退院するまで何度かありましたが、何をするのが正解だったのか。未だにわからないまま、そろそろ10年になります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました