生活支援員の仕事は、ご利用者さんの身体的なケアをするだけではありません。介護記録や個別支援計画、サービス等利用計画など、書類を書く機会が意外と多いですが、言葉の選び方で悩んでしまうことはありませんか?
- どのような言葉を選んだら良いかわからない
- 自分の表現で相手を不快にさせてしまったらどうしようと考えてしまう
- 書類作成にかかる時間を短くして、ご利用者さんに向き合う時間を大切にしたい
今回はその中でも特に、「ご利用者さんのできない部分ばかりが書かれた書類になってしまう」という悩みにフォーカスし、私が現場経験で培ってきた「できない」を『できる』に変えるテクニックをお教えします。
この記事は、
・書き方を教える立場になった生活支援員さん
・新人の生活支援員さん
・自分の書き方に自身が持てない生活支援員さん
におすすめです。
1章:書類を作る時の心構え
最初に声を大にして言いたいことがあります。
「完璧なものを作らなければ」と思い込みすぎないで下さい。
全力で取り組み、なおかつ100点を目指すと仕事自体が長続きしません。肝心なのは息長く仕事を続けることです。手に職をつけるという意味でも「福祉に関する書類を書く力」は立派なスキルです。
※「完璧」という言葉のもつ問題点については3・5章で書いていますので、ここではあえて使っていきます。
まずは、実際の書き方やアイデアを見る前に「書類を作るときの心構え」からチェックしていきましょう。この部分がしっかりとしていると、書類作成時の言葉選びの基準ができるだけでなく、普段仕事をしているときのご利用者さんやご家族さんへの言葉遣いのヒントにもなります。
文章表現の土台になる部分
少し意地悪な言い方になりますが、会話にしろ文章にしろ、「〜させていただく」という言葉さえ使えば丁寧な印象になる。と思っていませんか?
経験上、これは大きな間違いです。
大切なのは、「どのような言葉で書類を作るか」ではなく「どのような心で書類を作るか」です。この考え方の違いは、特に「ご利用者さん」を表現する場面で顕著に現れます。
相手に対するネガティブな気持ちが根底にあると、使う表現も自然とネガティブなものになってしまいます。大好きな人に言う「おはよう」と、苦手な人に言う「おはよう」の響きが同じではないのと原理は似ています。
あなたが個別支援計画(ご利用者さんに必要な支援についてまとめた資料)を作るとします。
ご利用者さんを「サポートがなければできない人」ではなく『サポートがあればできる人』と捉えることができたら、読んでいる人が温かい気持ちになれる計画が出来上がります。技術も大事ですが、土台となる心構えも同じくらい大事です。
後述しますが、相手への敬意があればどんな言葉を使っても許されるわけではないので、そこだけは注意して下さい。
職員としての「心構え」が確認できたら、その心構えを100%活かしていくためのワザを習得していくためのステップに入ります。次章では書類を書くときの「言葉選びの軸」を作るための方法を見ていきましょう。
2章:「種類」ではなく「役割」を知る
- 個別支援計画
- サービス等利用計画
- ケース会議のレジュメや議事録
- 毎日の介護記録
- ご家族さんとの連絡ノート
- 職員用の回覧
私が長年携わっている障害福祉サービスに限ったとしても、パッと思いつくだけでもたくさんの書類があります。
これらすべての種類と役割を頭に入れることができるか、と聞かれたら「不可能ではないかも知れないけど、もう少しわかりやすく考える仕組みがあれば嬉しい」というのが本音ではないでしょうか。
こう考えるとわかりやすい
ズバリ、「この書類を見るのは誰か」という視点でとらえることです。
これができると「言葉を選ぶ軸」ができるので、書類づくりが格段に楽になります。
①関係者だけが見る
⇒ケース会議のレジュメや議事録、職員用の回覧、毎日の支援記録
②ご本人さんも、関係者も、ご家族さんも見る
⇒個別支援計画、サービス等利用計画
③ご家族さんだけが見る
⇒ご家族さんとの連絡ノート
例外はありますが、大体このパターンに当てはまります。あくまでも目安なので、ハッキリ分類することが目的ではありません。
そして、ここでの「言葉を選ぶ軸」とは専門用語を使うかどうかです。それぞれに見ていきましょう。
専門用語とは
そもそも専門用語とは、「ある特定の集まり中で通用する言葉」のことで、専門用語を使うことのメリットは、「共通の理解があれば、認識に差が生じることなく簡潔に話が進められる」という点に集約されます。
【関連記事】⇒『めざせ!説明上手 〜専門用語をわかりやすく言い換えるテクニック〜』
ここでは「ADL」という専門用語を使って、「あるご利用者さん(以下Aさん)のADLが低下しないように、ウォーキングを取り入れる」という内容をそれぞれのパターンに当てはめていきます。
①関係者だけが見る書類は「専門用語を使って簡潔にまとめる」
「AさんのADL低下予防のため、ウォーキングを導入する」
⇒「ADLが低下しないように」を『ADL低下予防のため』、「取り入れる」を「導入する」に置き換えました。
関係者だけが見る書類の場合は、「少ない文字数で多くの情報を伝える」ことを意識して書いていきます。新人職員さんの研修用資料や、職員のほとんどが未経験の分野の報告書などを除き、「専門用語を理解している前提」で書いていきます。
他職種が連携して関わる支援のケース会議の時などは、注釈をつけて別紙で簡単に説明するなどの工夫をします。「書類そのものはシンプルでわかりやすく、専門用語が伝わらなかった時のサポートが行き届いている」というふうに感じてもらえます。
最初からあまり難しく考えず、「専門用語も含めて、短い言葉に置き換えられるなら置き換える」「説明が必要だと思ったら、別紙にまとめて添付」くらいの感覚で取り組むことが息長く仕事を続けていくためのポイントです。
②ご本人さんも、ご家族さんも、関係者も見る書類は「専門用語に一言説明を加えつつ、可能な限り簡潔にまとめる」
「ADL(日常生活に必要な動作)が低下しないように、ウォーキングを取り入れる」
⇒「ADL」に(日常生活に必要な動作)という一言説明をプラスしました。
正直なところ、ここが一番難しいです。ご本人さんやご家族さんが見る書類であることを考えると専門用語を使うことは避けたいけれど、同時に職員が見るものでもあるため、認識の誤差を最小限にしつつ簡潔にまとまっていることも求められます。
すべての専門用語をカッコ書きで説明する必要はありません。ご本人さんやご家族さんの知識量によっても対応は変わってきます。1つの目安として、自分の周りにいる職員さんに聞いてみて、半分くらいが「わからない」と答えたものに関しては説明を加えたほうが無難です。
場合によっては、③の形に限りなく近づくこともありますので、分類に沿うことを目的にせず「読む人にとってわかりやすい書き方」を優先してもらって大丈夫です。
これも、「まずは説明を加える形で書いてみる。わかってくれているという手応えのあるなしで、説明する量を調節する」くらいの感覚で取り組んでいきましょう。
③ご家族さんだけが見る書類は、「専門用語をできるだけ使わず、わかりやすさ重視で書く」
「普段の生活に必要な力を落とさないように、ウォーキングを始めます」
⇒「ADLの低下」を「普段の生活に必要な力を落とさないように」と置き換え、「取り入れる」を「始める」にしました。
特に家庭との連絡ノートはご家族さんにとって、ご利用者さんの状況を知るための貴重な情報源の1つです。選ぶ言葉によっては「冷たい」と取られてしまったり、本来の意図が伝わらない場合も出てしまいます。
専門用語を置き換えるのはもちろんですが、普段使っている言葉も「置き換えられそうなら置き換える」くらいで大丈夫です。
書類作成への苦手意識が蓄積しすぎて、介護の仕事そのものから離脱してしまうほど追い詰められては本末転倒です。
最初は時間がかかりますが、「書く」→「見直す」の流れのなかで「言葉を選ぶ軸」を基準に置き換えていきます。1人でやるのが難しければ、お互いのスキルアップのために、同僚と相互にチェックし合うのも有効です。
3章:「NG」を制するものは『Good』を制す
「言葉を選ぶ軸」についてチェックしたら、「心構え」を100%活かすために、仕事をする上でそもそも使ってはいけない言葉である「NGワード」についてチェックしていきましょう。
NGワードには大きく分けて2つのパターンがあります。1つが「倫理上使ってはいけない言葉」。そしてもう1つが「使うことで混乱を招いてしまう言葉」です。
自分の中にできた「言葉を選ぶ軸」を、より確かなものにするために確認していきます。使わないほうがいいとは知らずに使ってしまい、結果的に信頼を得にくい書類になってしまうことを防ぐ意味でも大切な項目です。
倫理上使ってはいけない言葉
・侮蔑的、否定的な言葉
・上下関係を連想させる言葉
仕事中の言葉遣いにも言えることです。障害者福祉の世界で働く以上(それ以外もですが)、侮蔑表現とは即刻別れを告げて下さい。
障害のあるなしに関わらず、ご利用者さんはひとりの尊重されるべき人間です。相手と誠実に向き合うために、「親しみ」と「無礼」を履き違えず「馴れ馴れしさ」を「フレンドリー」という単語でごまかさない「言葉を選ぶスキル」を身につけましょう。
大丈夫です。あなたが侮蔑表現を使わなくなっても誰も困りません。
また、ご利用者さんと職員さんは「サービスを受ける/提供する」という立場が違うだけで、そこに上下関係はありません。
特にご利用者さんを表現する時は、対等な立場で言葉を選ぶ意識が大切です。この意識が欠けていると、命令と取られかねない言葉や上下関係を連想させてしまう言葉を使ってしまいやすくなるので注意が必要です。
繰り返しになりますが、「侮蔑表現や上下関係を連想させる言葉さえ使わなければ、どのような心で接してもいい」というわけではありません。
②使い方によって混乱を招いてしまう言葉
「否定的な意味で言ったわけではないのに、悪い印象を与えてしまった」
「自分の思っている意味と違う意味で伝わってしまった」
このような場合は、こちらのケースに該当している言葉を使っていることが原因の1つとして考えられます。
・良い意味にも悪い意味にも取れる言葉
・支援者の主観によって書かれた言葉
・定義が曖昧過ぎる言葉
現場でよく使っている言葉の中に、良い意味にも悪い意味にも取れてしまうものがあります。書類を見る人が悪い印象を抱いてしまう恐れがある言葉を極力避けることで、「書類の言葉使いから受ける印象」と「実際にサービスを受けた時に感じる印象」の誤差が少なくなります。
15年近い現場経験で感じることの1つが、サービスに対する満足度が低いご利用者さん(ご家族さん)ほど、「プラン」と「サービス」のギャップを口にされるということです。
同じく、支援者の主観によって書かれた言葉も注意が必要です。「好き」「嫌い」は本人にしかわからないものなので、自分のことを自分の言葉で表現することが苦手なご利用者さんのことを書くときには特に配慮が求められます。
介護記録やモニタリングなどで、支援者の何気ない気付きなどを書くことは大切ですが、主観ばかりが書かれていては支援の軸がぼやけてしまうため客観的な事実を正確に伝えることが大切です。
さらに、冒頭で触れた「完璧」など定義が曖昧過ぎる言葉にも気をつけて下さい。これも次章で具体例を出していきますが、「完璧」が指すものを明確にすることで、伝わりやすい=信頼される文章になります。
最初は難しく感じると思いますので、自分で作った書類を「相手を見下す表現になっていないか」「曖昧な言葉を多用していないか」「自分の気持ちばかりが書かれていないか」という視点でチェックするところから始めていきましょう。
4章:「使ってはいけない」を『気遣いのできる表現』へ
この章では「使ってはいけない言葉」を『気遣いのできる表現』に変えていきます。
早速ですが典型的なものをいくつか挙げてみます。
・指示
・促す
・〜させる
・できない
なぜこれらを使わないほうが良いのか、どのように言い換えていけば良いのか説明していきます。
指示
【NGな理由】
上から目線で、上下関係を連想させてしまうから。
【良くない例】
「ウォーキングの際、職員の指示に従って行動する事ができた」
ご利用者さんの日課などに対して必要な支援や評価を書く場合がありますが、これではあまりにも上から目線です。ご利用者さんは「支援者が指示して従わせる対象」ではありません。
【書き換え例】
『ウォーキングの際、職員の声掛けを聞いて行動することができた』
内容は同じですが、言い方を変えるだけで印象がガラッと変わります。
さらに、いつ、どのような声掛けで、どのような行動をすることができたかが書かれていると、印象が良くなるだけでなく状況をイメージしやすくなるので信頼度がアップします。
【こうすればもっと良くなる!】
『毎日実施している昼食後のウォーキングの際、職員の「道路の端を歩きましょう」という声掛けを聞いて、歩道の白線の内側を歩くことができた』
促す
【NGな理由】
良い意味にも悪い意味にも取れるから。
悪い意味
・早くするよう急き立てる
・催促する
良い意味
・勧める
一見すると良い意味で取れるので使っても問題ない、と思われるかもしれません。ですが、上下関係や命令を連想させる意味が含まれているため、文章だけ見ると、「促す」がどういう意味で使われているのか判断できません。(3章の②で触れた「プラン」と「サービス」のギャップがこの部分です)
他に置き換えられる言葉があるので、そちらを使っていきましょう。
【良くない例】
「興奮状態になってしまったので、声掛けで気持ちの切り替えを促した」
「早く気持ちを切り替えるよう急かしている」「気持ちの切り替えを催促する」と読めてしまいます。
【書き換え例】
「興奮状態になってしまったので、声掛けで気持ちの切り替えを勧めた」
としたり
「興奮状態になってしまったので、気持ちを切り替えるための声掛けを行った」
こうすることで命令や上下関係を感じにくい表現になります。これに加えて、興奮状態とはどのような状態で、どのような声掛けかが書いてあるとさらにわかりやすくなります。
【そうすればもっと良くなる!】
『顔を赤らめ頭を掻きむしる動作が見られたので、気持ちを切り替えるために「昨日見たアニメのお話をしませんか」と声掛けを行った』
対象となるご利用者さんのサポートブックなどがある場合は、「サポートブックに沿って声掛けを行った」という支援の根拠を書く方法も非常に有効です。
〇〇させる
【NGな理由】
命令や上下関係を連想させてしまうから。
【良くない例】
「外出時の無駄遣いをやめさせる」
ご利用者さんは「いうことを聞かせる存在」ではありません。「やめさせる」という表現ではなく、どのような行動を取るのかを書くようにします。
【書き換え例】
「外出時に無駄遣いをしないよう声かけをする」
これだけでも命令や上下関係を感じにくい表現になりますが、「無駄遣い」という表現が引っかかります。この部分も置き換えつつ、声掛けの内容や頻度を書くことで伝わりやすさがグッと上がります。
【こうするともっと良くなる!】
「外出時にお金を使いすぎないようにするために、出発前に『本当に必要なものかを考えてから買いましょう』と声掛けをする」
できない
【NGな理由】
否定的な印象が強すぎるから
客観的な事実を書くことは大切ですが、ご本人さんやご家族さんも見る書類の場合は特に配慮が必要な言葉です。
【悪い例】
①「自分で着替えができない」
②「意思表示ができない」
これが自分の家族を評価する書類に書かれていたら嫌な気持ちになってしまいませんか?
【書き換え例】
①「自分で着替えをすることが得意ではない」
②「意思表示が苦手」
ストレートにできないと書くよりも、「得意ではない」「苦手」と書くことで表現に配慮しているという気持ちは充分に伝わります。
【こうすればもっと良くなる!】
①「袖に腕を通す動作に介助があれば着替えることができる」
②「意思表示の方法が共有されていない」
①は、どの部分にどんなサポートが必要かを『できる』目線で書くパターンです。後述しますが、「〇〇があれば〇〇できる」のパターンは汎用性が非常に高いです。
②については、「意思表示の方法が共有されれば、意思疎通ができる可能性がある」という意味を込めることができます。
また、『できる』目線の言葉が書かれていればいるほど、ご本人さんのやる気に繋がるのはもちろん、支援する職員さんも前向きに取り組むことができます。
5章:「使うときに工夫が必要な言葉」を『伝わりやすい表現』へ
この章では、使うことで混乱を招いてしまう表現についてピックアップし、「使うときに工夫が必要な言葉」を『伝わりやすい表現』へと変えていく方法をチェックしていきましょう。4章同様、まずは典型的なものを挙げていきます。
・好き/嫌い
・パニック
・完璧
・コミュニケーション能力
好き/嫌い
【工夫が必要な理由】
支援者の主観による表現だから。
実際に働いていると、「音楽を聴いている時に笑っているから好きに決まっている」と主張される職員さんがいます。もちろんその通りだとは思いますが、「好き」かどうかを決めるのはご本人さんです。私たちは「音楽が好き」という気持ちを代弁するのではなく「音楽を聴いて笑っている」という客観的な事実を書いていきます。
【良くない例】
①音楽が好き
②甘いものが好き
③大きな音が嫌い
自分ではない人から、自分のことを「〇〇が好き」と勝手に決められてしまったらさすがにいい気分がしないのではないでしょうか。「主観」ではなく「客観的な事実」で書き換えます。
【書き換え例】
①「音楽が好き」と話してくれたことがある
②甘いものを食べている時に笑顔になる
③大きな音に対して耳を塞いでうつむく
繰り返しになりますが、ポイントはご本人さんが言っていたから「好き」と書くのではなく、「ご本人さんが好きと言っていた」という事実を書くことです。「気持ち」ではなく「状況」を書くようにすると、客観性がぐんと上がります。
さらに「どのような内容に反応が見られるか」といった情報が加わるともっと良くなります。
【こうすればもっと良くなる!】
①「洋楽が好き」と笑顔で話してくれたことがある
②チョコレートが入ったお菓子を食べている時に、笑顔になる
③思わず振り向いてしまうほどの大きな音に対して、耳を塞いでうつむく
特に音に関しては受け取り手によって誤差が出やすいので、
「窓を締め切っていても外に聞こえるくらいの音」
「2メートルほど離れると聞き取れないくらいの声量」
「拍手やクラッカーなどの破裂音」
など、可能な限り詳しく書くことで伝わりやすさがアップし、ご利用者さんの状況を共有しやすくなります。
パニック
【工夫が必要な理由】
はっきりした内容がわからないのにわかった感じになってしまうから。
パニックとだけ書かれていて、「ご利用者さんがどのような状態になるのか」が書かれていないと、ぼんやりとしたイメージだけで状況を理解することになるので工夫が必要です。
【良くない例】
「急に予定を変更するとパニックになる」
パニックという言葉自体を使わないほうが良いと言っているのではないので、使いこなすことができれば大きな強みになります。
必要なのは、「パニック」というラベルではなく、それが指している中身です。どのような行動が見られるかを書くと「ご利用者さんの状態がよく分かる」という印象を持ってもらいやすくなるので、信頼度も上がります。
【書き換え例】
「急に予定を変更すると、大声を出しながらその場で飛び跳ねる」
さらに、パニックが指すはっきりした状況を書く時に、
「飛び跳ねる」
「大声を出す」
「自分の体を叩く」
と書いてしまうと、ご本人さんが自らの意思で行っているように読めてしまうため、「〜してしまう」という表現を使っています。
また、「急」がいつなのかを書くことではっきりしたイメージを共有しやすくなります。
【こうすればもっと良くなる!】
「当日に予定を変更すると、大声を出しながらその場で飛び跳ねてしまう」
実際に現場で働いていると、「はっきり書くとご本人さんやご家族さんが傷ついてしまうかもしれない」という配慮から、直接表現しないことが必要な場面に出会うことがあります。
その場合は「当日に予定を変更するとパニックになる」と書き、別紙に状況をまとめ、支援者間では具体的な情報共有ができるようにしておく方法がオススメです。
「パニック」という言葉そのものを置き換えたいという場合は、「気持ちが焦ってしまう」という言葉をよく使います。特にご本人さんが見る書類の場合は、持っておいて損のない表現です。
個別支援計画やサービス等利用計画に関しては、わかりやすさとともに簡潔さも求められます。トータルの文章量を減らす目的で、注釈で説明を加えたり、「大声を出してその場で飛び跳ねてしまう(以下、パニック)」という表現で1つ書き、それ以降は「パニック」で書いていく方法が有効です。
詳しい情報を書きつつ文章全体がスッキリとまとまります。
完璧
【工夫が必要な理由】
人によって「完璧」の内容が違いすぎるから。
ちゃんと、しっかり、きちんと
なども同じような理由で工夫が必要です。
【良くない例】
「袋詰めの作業を完璧にこなすことができた」
何ができたら完璧と言えるのか、人によって受け取り方が違います。そのため、具体的な行動を書くことが大切です。個別支援計画やサービス等利用計画の「目標」の部分と関連があればなお良しです。
【書き換え例】
「袋詰めの作業を、職員の声掛けなしでできた」
「袋詰めの作業を、不良品を出さずに仕上げることができた」
「完璧」よりも何ができたのかはっきりと分かります。ここに「数字」や「量」などの客観的な情報が入ってくるともっと良くなります。
【こうすればもっと良くなる】
「袋詰めの作業を、職員の声掛けなしで準備から片づけまでできた」
「袋詰めの作業を、不良品を出さずに30分で20個仕上げることができた」
コミュニケーション能力
【工夫が必要な理由】
その言葉が指し示す意味が広すぎるから。
・言葉のやり取りをする
・冗談が通じる
・相手の気持ちを考える
・相手が話し終わってから自分が話す
・メールなどの通信機器を使う
これらはすべて「コミュニケーション能力」と言い換えることができます。言葉の指し示す幅がいかに広いか感じていただけるでしょうか。
【良くない例】
「コミュニケーション能力を身につける」
パニックとよく似ていて、何をどう支援して良いのかわからないのに、わかった感じになってしまいます。コミュニケーションが指すものをはっきりさせることで、支援者間で目指すものが共有しやすくなります。
【書き換え例】
「筋道を立てて話す力を身につける」
「相手の話を聞き終わってから話す力を身につける」
「相手によって言葉を使い分ける力を身につける」
わかりやすさという意味ではこれで充分ですが、バリエーションを増やす意味で「力を身につける」部分を変換してみます。
【こうすればもっと良くなる!】
「筋道を立てて話すことができるようになる」
「相手の話を聞き終わってから話すことができるようになる」
「相手によって言葉を使い分けることができるようになる」
6章:「できない」が多い文章を『できる』がいっぱいの文章に変える
「心構え」「言葉を選ぶ軸」「使ってはいけない言葉」がわかったところで、次はケース会議などで用いられる「ご本人さんの特性」について書かれた文章を例にして、「できない」が多い文章を『できる』がいっぱいの文章に変えていきましょう。
ケース会議は「困りごと」に対して支援方法を考えていくものだから、「できない」が中心になるのでは? と思われるかも知れませんが、決してそんなことはありません。『できること』を中心に書いて『もっとできること』を増やしていけるようなケース会議であれば、参加している人も前向きな気持になれるので、サービスの質がさらに向上する好循環を作り出すことができます。
【例文】
Aさん、男性(〇〇歳)知的障害を伴うASD
自閉傾向が強く、場面ごとに自分のルーティーンを行わないと次の行動に移ることができない。部屋を移動するたびに靴下を履き替えることや、物を定位置に置くことにこだわりがある。
こだわり行動を途中で止められると、パニックになり壁を叩いたり暴言や他害行為に及ぶが、普段と違う場面ではこだわり行動が減少する。
人と話をするのが好きで、会話を積極的に楽しんでいる反面、やることがない時間が嫌いでイライラすることが多い。自分勝手に話しかけることが多く、5回に3回は職員が注意を促しても話し続けてしまう。
この文章、少し修正するだけでガラッと印象が変わります。
『できる』で終われるかどうかを考えて変換する
【例】
自閉傾向が強く、場面ごとに自分のルーティーンを行わないと次の行動に移ることができない。
↓
自閉傾向が強いが、場面ごとに自分のルーティーンを行うことができれば次の行動に移ることができる。
自閉傾向とは、対象となる行動が一般的に「しつこい」と感じてしまうほど繰り返される状態にあることを言います。良い意味で使われる言葉ではないので、連絡ノートなどに書くことがあれば、「どうしても諦められない気持ちが強い」という言葉で置き換えています。
良い意味にも悪い意味にも取れる言葉への配慮
こだわりには「必要以上に執着する」という意味があります。「促す」同様、配慮が必要な言葉です。
【例】
部屋を移動するたびに靴下を履き替えることや、物を定位置に置くことにこだわりがある。
↓
部屋を移動するたびに靴下を履き替えることや、物を定位置に置くことに強い思い入れがある。
解釈の幅が広い言葉を説明する
「こだわり」の置き換えパターンをもう1つ紹介しつつ、パニックという言葉が指す行動を詳しく書いていきます。
【例】
こだわり行動を途中で止められると、パニックになり壁を叩いたり暴言や他害行為に及ぶが、普段と違う場面ではこだわり行動が減少する。
↓
簡単には譲りたくない行動を途中で止められると、体を震わせ表情が険しくなり、壁を叩いたり暴言や他害行為に及んでしまう、外出先など普段と違う場面では対象行動が減少する。
「パニック」の様子を説明し、「外出先など」という例を加えることで、状況がイメージしやすくなります。
また、「こだわり」を置き換え、「及んでしまう」と書くことで、ご利用者さんが自らの意思で他害しているのではないという事をわかってもらいやすくなります。
「対象行動」としたのは少しでも簡略化するためです。
「支援者の主観」から「客観的事実」へ
【例】
・人と話をするのが好きで、余暇を積極的に楽しんでいる反面、やることがない時間が嫌いでイライラすることが多い。
↓
人と話をしている時に笑顔が見られ、会話を積極的に楽しんでいる印象を受ける反面、やることがない時間には周囲を見回しながら髪をかきむしる動作が見られることが多い。
「好き」、「楽しんでいる」「嫌い」「イライラしている」などは、ご利用者さん自身にしかわからないことなので、客観的な表現に置き換えていきます。
「楽しんでいる印象を受ける」
「楽しんでいるように見える」
どちらの表現でも構いませんが、前後の語尾が「見える」なので、変化をつけるために「印象を受ける」を使いました。
『できる』目線で書く
「自分勝手に」という表現の置き換えを紹介しつつ、『できる』目線での書き方に変換します。
【例】
・自分勝手に話しかけることが多く、5回に3回は職員が注意を促しても話し続けてしまう。
↓
・相手の状況に関わらず話しかけてしまうことが多いが、5回に2回は職員の「今はお話ができません」という声掛けを聞いて、気持ちを切り替えることができる。
「自分勝手」は受け手が良い印象を持ちませんので違う表現を使います。「〇〇してしまう」という書き方をすることで、ご利用者さんが意図的にやっているわけではないことも伝わります。
「10回中1回失敗する」
「10回中9回成功する」
どちらも同じ意味ですが、受ける印象は大きく違います。「5回に3回できない」ではなく『5回に2回できる』というふうに、『できる』目線で書くことで受け手の印象が良くなります。
【書き換え後】
Aさん、男性(〇〇歳)知的障害を伴うASD
自閉傾向が強いが、場面ごとに自分のルーティーンを行うことができれば次の行動に移ることができる。部屋を移動するたびに靴下を履き替えることや、物を定位置に置くことに強い思い入れがある。
簡単には譲りたくない行動を途中で止められると、体を震わせ表情が険しくなり、壁を叩いたり暴言や他害行為に及んでしまう。外出先など普段と違う場面では対象行動が減少する。
人と話をしている時に笑顔が見られ、会話を積極的に楽しんでいる印象を受ける反面、やることがない時間には周囲を見回しながら髪をかきむしる動作が見られることが多い。相手の状況に関わらず話しかけてしまうことが多いが、5回に2回は職員の「今はお話ができません」という声掛けを聞いて、気持ちを切り替えることができる。
例文よりも、「ご利用者さんの出来るところ」がたくさん書かれた内容になっているのを感じでいただけたでしょうか。
1つ1つの技術は小さいかもしれませんが、組み合わせれば大きな力になります。
6、読み手の印象を悪くしない小ワザ
最後に、私が使っている「読み手の印象が良くなる小ワザ」を紹介します。
あくまでも枝葉の部分ですが、知っているのと知らないとではかなりの差が出ます。とくに家庭との連絡ノートや、個別支援計画の評価の項目に使っている方法です。
・サンドイッチ作戦(ネーミングセンスはさておき…)
故意であるかどうかに関わらず、物を壊してしまったり、誰かに怪我をさせてしまうケースはどうしても起こります。誠実に報告する必要がありますが、この時少しでも印象を悪くしないための方法が「サンドイッチ作戦(ネーミングセンスはさておき…)」です。
ポイントは、「できたこと」→「できなかったこと」→「できたこと」という順番で書くことです。
これによって、「良い印象で始まって良い印象で終わる」文章になります。
【例】
・ウォーキングを毎日実施することができた(できた)
・ウォーキング後の水分補給が適切に行えた(できた)
・体重が減少しなかった(できなかった)
という3つの項目があるとします。
A、「ウォーキングを毎日実施することができた。ウォーキング後の水分補給も適切に行うことができたが、体重は減少しなかった。」
B、「ウォーキングを毎日実施することができた。体重は減少しなかったが、ウォーキング後の水分補給を適切に実施することができた。」
C、「体重が減少しなかった。ウォーキングを毎日実施することができ、ウォーキング後の水分補給も適切に行うことができた。」
Aは「できた」「できた」「できなかった」
Bは「できた」「できなかった」「できた」
Cは「できなかった」「できた」「できた」
という順番になっていて、Bが「良い印象で始まって良い印象で終わる」パターンです。
まとめ
今回は、『できる』表現のテクニック:好感度の高い書類を作ろう!というテーマで、書類を書く時の言葉の選び方について書いてきました。
冒頭でも触れましたが、100%の力で100点を目指そうと思わないで下さい。お気づきかも知れませんが、「100点の仕事」という言葉自体が極めて曖昧なんです。
少し周りを見る余裕がある状態で、何回か書き直すつもりで書くくらいが丁度いいです。そして、いきなり全部を実践しようとしなくて大丈夫です。
- 「こだわり」を『思い入れ』に置き換えるところからやってみる
- 侮蔑表現を使わないと決める
- 自分が書く書類をリストアップしてみる
など、できるところからやっていきましょう。最初の1歩は小さく、最後の1歩まで小さくが長続きの秘訣です。
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