『たかさんと私』#10 嫁さんの好きがたかさんを救う!?

第6話〜第10話

化膿性膝関節炎の緊急処置により、リハビリ再開の目処が立たず、1日の大半をベッドに横になって過ごすことになったたかさん。

ある日、「ぞうさんのあくび」という声が耳に入りました。私に話してくれたのではなく、独り言のように聞こえました。

どこかで聴いたことのある単語です。普段は仕事のことをあまり話さない私ですが、この日は帰ってから嫁さんにそれとなく話してみました。

「弘道お兄さんの前の体操のお兄さんのコーナーだね」
と即答する嫁さん。そう言えば、「弘道お兄さん」もたかさんの口から出てきたことがあります。

そのことも伝えると、「じゃあ、これを持っていったら?」
と言って、DVDプレーヤーと「おかあさんといっしょ、50周年記念コンサート」のDVDを渡してくれました。

聞けば、そのDVDの中にたかさんが言っていた体操や、弘道お兄さんが出てくるとのこと。たかさんの言っていた体操のシーンとしてはすぐに終わってしまうけれど、逆に他の場面を見て気になるものが見つかるかもしれないと言うではありませんか。

実は嫁さん、「おかあさんといっしょ」のだいすけお兄さんの大ファンで、その熱量は出演するDVDを全巻コンプするほど。渡してくれたDVDも、だいすけお兄さん目当てで購入したものらしいです(笑)

翌日、嫁さんから預かったDVDを再生すると、たかさんが声を出して笑いだしました。
「たかさんってこんなにも笑うんだ」
驚きと感動でしばらく声を失う私…。ご家族さんに報告するため、すぐに記録をつけたのは言うまでもありません。

それ以来、「おかあさんといっしょ」のDVD鑑賞は、たかさんのお気に入りになりました。

たかさんの独り言は他にもあります。時々思い出したように呟いてくれる言葉を、記録用紙に書き留めるのが私の小さな楽しみでした。

思わず笑顔になるものから、ドキッとさせられるものまで、リハビリの再開を待つ間は、どうしてもベッドで寝ている時間が多いため、ひとりごとをたくさん聞くことができた時期でもありました。

「大変だ、大変だ、ガーコ、ガーコ、大変だ〜」
「何をしておるのじゃ〜」
「どこへ行くのじゃ〜」
「たいくつやな」
「豆腐食べた、ご飯食べた」

正直、見ているのも辛いほど痛々しい様子のたかさん。私の心のゆらぎを察知したかのようなタイミングで飛んでくる面白い言葉に支えられ、付き添いを続けることができました。

たかさん、ありがとう!
(何言ってるんだブラザー。そんなことよりお茶のフタをパチっと閉めてくれよ)

緊急の処置から約1週間。主治医の先生から、徐々に血が綺麗になってきた、という話を聞くことができました。
膝のチューブを抜くことができれば、リハビリを再開することができる。たかさんは「いつまで」や「いつから」を理解することがとても苦手ですが、ゆっくりと何度も声をかけました。

「チューブが取れたら、リハビリしましょう」


▶︎ 次回(第11話)へつづく

#11 私の名前は検温マン!


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#9 私よ、顔を上げて前を向け

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