化膿性膝関節炎のため、膝にチューブを取り付けることになり、退院に向けたリハビリが一時中断しているたかさん。その処置とは関係なく、入院中はずっと点滴をつけていました。
点滴は利き手と反対につけることが多いらしいんですが、たかさんは利き手と反対につけると、自由に動く利き手を使って外してしまう危険がありました。そのため、逆に利き手に点滴をすることになりました。
当時は、点滴を外してしまうことは殆どなく、対応としてはベストな選択肢の1つだったと思うんですが、予想外の弊害がありました。
食事です。
ただでさえ手指の細かい動作が得意ではないたかさんにとって、利き手に点滴をしていたのはとても食べにくかったと思います。
お昼になると、看護師さんやナースエイドさんが食事を運んでくれます。リハビリをしている時は、気分転換に共有スペースで食べることもありましたが、病室で食べることも多かったです。
ベッドは背もたれの部分が可動式になっているので、起こして良いと言われている角度まで調節します。ベッドをまたぐようにテーブルをセットし、エプロンを付けてもらい、フォークを手渡したらお食事タイムスタートです。
「いただきます。」
(とは言ったけど、野菜とフルーツと汁物は食べないぜ、ブラザー)
…あの〜、たかさん。それだと食べるものがご飯だけになっちゃいますよ。
そんな弊害も一緒に工夫しながら、たかさんと私は毎日を過ごしていました。ですが相変わらず膝にはチューブがついています。
このチューブが付いている間、たかさんはずっと発熱していました。そりゃそうです、膝が化膿するレベルの炎症が起きてるんですから。
私としては気が気ではありません。心配を通り越して「何とかしてあげたい」と思うようになっていました。
とはいえ、私はあくまでも付き添いです。たかさんの安全を守る意味でも、与えられた以外の仕事をするのはご法度です。
そんな私ですが1つだけできることがありました。「検温」です。早速、偶然家に余っていた体温計を持ってきました。
え? 家に体温計が余ることがあるのか?
体温計を失くしてしまって、新しいのを買ってきたタイミングで、もともとあったやつが出てくることって良くある事じゃないですか? 私だけですか? …そうですか。
検温自体は看護師さんが適切なタイミングで実施してくれていますし、測ったところで何かが変わるわけではないんですが、一時期、体温ばっかり測ってる時期がありました。記録用紙には、1時間に1回くらいの頻度で書き込みがあります。
当時のたかさんからしたら、
「また測ってる。測りすぎじゃない?」
と思われていたかも知れません。
それくらい心配だったんですってば。
膝にチューブを取り付けてから約2週間、ついに抜去するタイミングがやってきました。私達にとって、待ちに待った瞬間です。
▶︎ 次回(第12話)へつづく
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👉️#6〜#10のあらすじ
陽向総合病院に入院している”たかさん”。最初は絶対安静でしたが、しばらくしてリハビリが始まりました。私との関係も少しずつ深まり、このまま快方に向かうと思われた矢先、たかさんの目の前に大きな壁が立ちはだかります。
「少しずつ広がっていた世界が…」ショックの中、私は付き添い業務を続けます。記録用紙のところどころの文字が震えていました…。
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