『たかさんと私』#14 HIJIKIは輝いていた

第11話〜第15話

たかさんは、とても偏食さんです。食べるものは基本的に、ご飯とお肉類のみ。野菜とフルーツ、汁物は殆ど食べません。また、卵を使った料理も苦手です。

マヨネーズは「かけてある」「和えてある」共に食べません。ふりかけはOKですが、毎回使わなければならない、というわけでもありません。

たかさんの食の好みがわかってくると、配膳されたメニューを見ただけで、「コレとコレを食べるはず」というのが見えてきます。

ある日、配膳されたメニューです。

・ごはん
・とり肉の卵とじ
・ひじき
・春雨サラダ(マヨネーズ和え)
・お吸い物
・フルーツ

これを見て、私の頭に浮かんだのは、
「ごはんしか食べるものがない」
という、それはそれはありがたくないビジョンです。

食欲がないわけではないので、少しでも食事を楽しんでもらえたらという思いで、もう1度メニューを見ました。

「ひじき」

副菜である彼が、これほど輝いて見えたことが、未だかつてあったでしょうか!!

たかさんがご飯を食べるペースに合わせ、ひじきを少しずつご飯にのせて食べてもらいました。すごいぞ、ひじき。君には無限の可能性がある!

最初に「ひじきを食べよう!」と思ったご先祖様、感謝いたします!!

ニヤニヤしながらひじきを乗せる私と、何事もなくご飯を食べるたかさん。
後から振り返ってみると、何とも不思議な光景ですね。

それ以来、たかさんが食べられそうなおかずを、ご飯といっしょに食べてもらうのが、私の大事な仕事の1つになりました。

もちろん、入院中のケアや、看護師さんとの意思疎通も重要です。とはいえ、常に動き続けていたわけではありません。

リハビリや検査など、病院のスケジュールを除けば、たかさんから希望があった場合に対応する感じなので、声がかからなければ基本的に待機です。

私が身を置くのは主に病室の窓際です。病室の入り口と、たかさんの様子を同時に視界に収めることができる、お気に入りのポジションです。たかさんの様子が落ち着いている時は、短時間ですが視線を外して窓の外を眺める余裕がありました。

たかさんが入院していた病室から見て1時の方向、目線としてはやや下のところに、牛丼チェーン店の看板が見えます。

窓の外を眺める度に、その牛丼屋の看板が視界に入ってきます。決して看板に罪はありません。ありませんが、毎回視界に入ってきます。

最初のうちは、「ああ、牛丼食べたいな〜」くらいに思っていましたが、窓の外に目をやると見えるのは、代わり映えのない景色です。

変わらないことで安心感を得られるケースも少なくありませんが、毎日同じ景色を眺めていると、「たかさんはいつ退院できるんだろうか」という焦りや不安のほうが大きかったです。

ですが、たかさんの身体は、少しずつですが確実に退院へのステップを登っていました。そしてついに、今まで入ることができなかったお風呂OKの指示が出ました。


▶︎ 次回(第15話)へつづく

#15 嬉しくないファインプレー


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#13 病室雨漏り事件!?

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