たかさんに、ついに「お風呂」のOKが出ました。待ちに待った瞬間です。
突然の入院から約1ヶ月半、体を拭いてもらうことはあったものの、ずっとお風呂に入れなかったたかさん。お母さんとバトンタッチする時に、大喜びしたのを覚えています。
怪我の具合や、途中で発症した化膿性膝関節炎の経過などを判断し、最初はシャワー浴からスタートしようという話になりました。それでも今の私達にとっては十分すぎる喜びです。
陽向総合病院のお風呂は、いわゆる「特殊浴槽」です。普段寝ているベッドから、濡れても大丈夫なベッド?に移動し、そのまま湯船に浸かることができます。
「おっす!」
当日、元気印のアラタさんが、もう1人のナースエイドさんと一緒に病室まで来てくれました。ああ、いつもより笑顔が輝いて見えます。
「あなたはどうするの〜?」
手際よく移動の準備をしながら、私にも声をかけてくれるアラタさん。唐突なパスに戸惑いつつも、お風呂の様子を報告させてもらうため、私も浴室まで同行することにしました。
たかさんも、不安とワクワクが入り交じったような表情で、「今からさっぱりするんだぜ、ブラザー」と語りかけてくれているようでした。
浴室に到着したたかさん。手際よく準備をするナースエイドさんの邪魔にならないようにしながら、私もたかさんの足の方に回って、様子を見せてもらうことにしました。
たかさんが、湯船に浸かるための機械に乗り換え、浴槽の上まで移動したその時、私の目がたかさんの膝の違和感を捉えました。
「止めてください!」
反射的に声が出ていました。何の根拠もない違和感ですが、「見逃してはいけない」と本能が告げているようでした。私が口を出して良いのか迷いましたが、何もしないことの後悔がどれほど大きいかは、あの時の私自身が一番良く知っています。
気のせいであってほしいと祈りながら、たかさんの膝を確認させてもらったところ、わずかですが傷口から浸出液が出ていました。
看護師さんや主治医の先生に連絡をしてもらい、結果的に入浴は延期になってしまいました。
手前味噌な話ですが、ほんの僅かの浸出液を見逃さなかったのは、支援者としてはファインプレーだったと思います。ですが、たかさんをがっかりさせてしまったかもしれない、という気持ちになったのもまた事実です。
楽しみが延期になってしまったという気持ちと、不測の事態を直前で回避できたという気持ちが入り乱れたまま、その日は過ぎていきました。
「明けない夜はない。」
そう自分に言い聞かせ、翌日もたかさんの病室に向かいました。
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