『たかさんと私』#18 何があっても大丈夫と言えるように

第16話〜あとがき

退院に向けた準備のため、一時帰宅することになったたかさん。
リハビリ担当のセガワ先生が同行してくれることになったんですが、移動の段取りを決めていた時、思わぬところで課題が見つかりました。

たかさんが誰の車に乗っていくか、という問題です。

「私は病院の車で行くことになりますが、規定上、職員以外の人を乗せることができないんです。」
つまり、セガワ先生はたかさんと一緒に移動することができません。単独でたかさん宅へ向かう事になりました。
「初めて行く場所ですが、ついていくから大丈夫ですよ。」

「じゃあ、たかさんと私は私の車で移動ですね。」
お母さんには、一足先に自宅に戻って準備をしてもらうことになっていたので、たかさんは私の車で移動することになると思っていたんですが、

「いえ、それが、患者さんのご家族さんではない人の車で、外出はできないんです。」
いや、もう家族みたいなもんじゃね? とは思っていても言い出せず。仮に家族みたいなものだったとしても、規則は守らないといけません。

結局たかさんと私はタクシーで移動することになりました。タクシーの運転手さんに、私が道を伝え、その後からセガワ先生がついてきてくれるという、「運転手が誰一人として『たかさんのお家』を知らない」キャラバン隊が結成されました。

「よろしく頼むぜ、ブラザー」
たかさんの目は、そう伝えてくれているようでした。

今でこそ笑える話ですが、かなり緊張していたことを覚えています。その緊張感はたかさんが一時帰宅する当日、ピークに達していました。

とにかく落ち着くように自分に言い聞かせ、いつものように病室へ向かいました。2ヶ月近く通っている病室ですが、今日はいつもと雰囲気が違います。

私を出迎えてくれたのは、私服に着替えてベッドサイドに座るたかさんでした。制服姿しか見たことがなかったクラスメイトの私服を初めて見た時か! っていうくらいテンションが上がる私。さっきの緊張感はどこへやら…。

アディダス似合うわぁ〜!! ジャージの着こなし素晴らしいわ〜!! ああ、その靴下懐かしい! ピーステラスに履いてきてたことありましたよね。

…1回落ち着こう。

まずはお母さんとバトンタッチして、一足先に自宅に戻って準備を整えてもらいます。その間、たかさんと病室で過ごし、時間に合わせて玄関に移動。手配していたタクシーに乗り込みました。最初の目的地は靴屋さんです。

タクシーに乗ること約10分。会話はほとんどありませんでしたが、たかさんの何とも言えない顔は今でも覚えています。
「たかさん。今から靴屋さんに行きます。」
「はい。」
(余談ですが、たかさんの「はい。」は「うぃっ。」と聞こえます)

靴屋さんでは、セガワ先生の見立てで、足首のあたりまでしっかりと履くタイプのスニーカーを選びました。店員さんも試着やおすすめの靴を選ぶお手伝いをしてくれました。

誰がリーダーシップを取るでもなく、それぞれが同じ目的に向かって自然と動く感じ。これぞまさにチームワークです。「チームたかさん」はここでもしっかりと同じ方向を向いて、たかさんを支えていました。


▶︎ 次回(第19話)へつづく

#19 たかさんは愛されている


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#17 目指すのは「ゴールの向こう側」

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