『たかさんと私』#19 たかさんは愛されている

第16話〜あとがき

たかさんが一時帰宅をする日の出来事はまだ続きます。

最初の目的地である靴屋さんでの買い物を終え、私達はたかさんの自宅へと向かいました。

普段タクシーに乗らない私。隣りにいるたかさんと、「フォード」「コロナ」のやり取りをしながら、送迎車に乗っているってこんな気分なのかな…と想像していました。

「ここに手すりがあると、玄関での靴の脱ぎ履きが安定するかもしれません」

自宅では、お母さんとセガワ先生が、たかさんの生活動線を元に危険箇所を洗い出し、その対策を話し合っています。

たかさんが2階で生活していたこと、廊下の段差、玄関の上がり框の高さなどをチェックし、手すりを付ける位置や追加で用意する家具などを絞り込んでいきました。

「チームたかさん」には、お父さんという頼もしいチームメンバーがいます。入院中、たかさんがDVDを観るのが好きと知ると、そのまま最寄りの家電量販店に、たかさん専用のプレーヤーを買いに走るほど、エネルギッシュなお父さんです。

たかさんと誰よりも長い時間を過ごし、繊細な気配りでたかさんに寄り添うお母さん。大胆な決断と行動力で、たかさんの生活をバックアップするお父さん。

たかさんがどれだけ愛されているか、この日の一時帰宅で改めて感じました。

リハビリも順調に進み、自宅での歩行を視野に入れ、階段の上り下りなども練習するようになったたかさん。自宅での生活をシュミレーションで来たからこそのリハビリメニューです。

順調に進んでいるとは言え、元の歩行を取り戻すことはできない、という現実がずっと心に引っかかっていた私。ですが、新しい歩き方を確実に自分のものにするたかさんを見ていると、「私も前を向こう」と思うようになりました。

今思えばですが、たかさん自身も退院について漠然と意識していたんじゃないかと思います。特に退院の10日ほど前から、目に見えてたかさんのひとりごとが増えてきたからです。

決して不安な様子になったわけではなく、思い出したように素敵な言葉を聞かせてくれます。

「くるっ、くるっ、くるっ、怖くな〜い」
「早くしないと落ちちゃう〜 暗くなると落ちちゃう〜」
「靴買った、靴屋さん」
「もしもしですか〜? 電話、もしもし」
「ひろみちお兄さん、ひろみちお兄さん、うふふ」
「お昼から、ガーコ!」
「志村! 志村!」
「おばあちゃん来た」
「ぞう!!!」

ナースエイドさん「何見てるの?」
たかさん「サイコロ」(ちなみに、サイコロは出てきませんでした)

そばで聞いていると、記憶を整理しているような印象を受けました。思わず笑顔になる素敵な「たかさん語録」いかがでしたか?


▶︎ 次回(第20話)へつづく

#20 その日は突然に


◀︎ 前回(第18話)を読む

#18 何があっても大丈夫と言えるように

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