『たかさんと私』 #7 たかさんのリハビリ

第6話〜第10話

入院当初は絶対安静だったたかさん。ですが、入院から1週間ほど経ったころから、リハビリを始めることになりました。

陽向総合病院の1階にはリハビリルームがあります。担当してくれるのは、セガワ先生という若い男性の理学療法士さんです。

自分で自分のことを伝えることが極めて苦手な、たかさんのようなタイプの人のケアをした経験が少ないとのことでしたが、誰よりもたかさんの特性を理解してくれていた病院スタッフさんの1人です。

まず最初にセガワ先生がしたことは、リハビリの時間を「可能な限り午後1番」に固定したことです。

変化が苦手というたかさんの特性に寄り添い、血液検査などが集中しやすい午前中の時間帯を避ける配慮をしてくれました。

これが本当にありがたかったです。時間ではなく行動で作る流れは、たかさんにとって負担が少ないはずです。たかさん目線で「お昼ごはん ⇒ セガワ先生」という流れができ、スムーズにリハビリに向かうことができました。

そして、たかさんの好きな食べ物などをしっかりと覚えていてくれて、いつも優しく話しかけてくれました。たかさんのリアクションを受け止めつつ、リハビリを淡々とこなしていく、一連の動作から確かな自信を感じます。まさにプロフェッショナル。

病室のドアがノックされセガワ先生の顔が見えると、たかさんが安心して「リハビリモード」に切り替わるのが、近くにいて伝わってきます。

べ、別にヤキモチとか焼いてませんよ。安心した表情でリハビリ室へ向かうたかさんを見ながらヤキモチなんか焼いてませんよ。

セガワ先生は、リハビリ室に行くときは決まって職員用のエレベーターを使います。おそらく「このエレベーターに乗るときはリハビリに行く」という流れを作るための配慮だと思いますが、実はこれが私の小さな楽しみの1つでした。ちょっと特別感ありません?

たかさんは、自分の置かれた状況に関わらず「はい」と答えてしまうタイプです。体調が悪くても「だいじょうぶ」と返事を返してしまうことがあるので、たかさんの特性を知らない人からすると「大丈夫なんだ」と思ってしまう部分に難しさがあります。

また、発音が少し特徴的で、慣れるまでは聞き取りにくさを感じる場合があります。たかさんに関わる病院のスタッフさんに、彼の状況や言葉をできるだけ正確に伝えるのが、日中お付き添いするときの大切な役目でした。

リハビリは「ベッドに寝て足を動かす」⇒「歩行練習」というメニューが多かったです。最初は平行棒のような手すりに捕まって、数秒間立つところから、少しずつ歩く距離を増やしていきました。

私も、リハビリ室まで一緒に行きますが、施術中は特にやることがないので、基本は待機です。動作に集中してもらいたいという思いで、リハビリ中はできるだけたかさんの視界に入らないようにしていました。

それでも、時々目が合うことがありました。その瞳は「何してるの?」と聞いてくれている気がして仕方がありません。

「私はたかさんの応援をしてます。」
と、口に出しては言わなかったけれど、たかさんには私の気持ちが伝わっていたと信じています。

物事の見通しを持つことが苦手なたかさんが、拒否のアクションを取ることなくリハビリを継続することができたのは、セガワ先生の熱意と特性に合わせた対応のおかげです。何度も言いますが、別にヤキモチなんて妬いてませんよ(笑)

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