『たかさんと私』#最終話 それはゴールではなくリスタート

第16話〜あとがき

「明日退院です」

その日は突然やってきました。朝の回診でそう告げられた私たちは、一気に「退院モード」になりました。

お母さんに連絡し、手続きに必要なものを揃えてもらうよう手配し、私も可能な限り荷物を整頓し始めました。でも、たかさんの「気になるスイッチ」を押してしまうのはNGなので、あくまでも「気にならない範囲で」というのが大前提です。

退院する時間は朝8時。前日のご家族さんとの引き継ぎ用紙には、「〇月〇日、けん直行にてお付き添い」と記載があります。

退院を翌日に控えても、たかさんはとってもマイペース。いつものように「おかあさんといっしょ」のDVDをリクエストしてくれました。

タイトルは「ありがとうの花」

あのね、たかさん。私、涙腺のパッキンが弱いのよ。退院前日にそのDVDのチョイスは反則じゃありませんかね…。

「うただ。」
「あ、は〜い。」

私の涙腺がうるうる具合にかかわらず、唐突にCDをリクエストしてくれる流れもいつも通りです。
たかさんとのやり取りも、今日で終わりかな、そう思うと寂しさがこみ上げてきます。

いや、違う。ここでのやりとりは「続かないほうがいい」んです。
たかさんは今入院しているんですから。この生活はたかさんにとって、イレギュラー以外の何物でもありません。

明日から、たかさんには「いつもの生活に戻る」という「新しい生活」が待っています。今まで通りにはいかないことがたくさんあるので、新しいいつもの生活です。

退院当日の朝は、私にとっても特別な日でした。普段は、ぴーすてらすに出勤してから、たかさんのいる陽向総合病院に移動していましたが、今日は直接病院にやってきました。

ここに来て約3ヶ月。当たり前のように通していた駐車券の処理も、無意識にしていたエレベーターのボタン操作も、今日で最後です。

これが終われば、ぴーすてらすでの業務に戻る。

もしかしたら、変化を一番嫌っていたのは私だったのかもしれません。

「おはようございます。」

私に出来ることは、最後の最後までたかさんの安全を守ること。そう言い聞かせて、いつものように病室のドアを開けました。

そこには、アディダスのジャージをいつも通りに着こなし、ベッドに腰掛けるたかさん。よっぽど私より堂々としてます。

「フォード。(俺、今日なんかいつもと違う服だぜ、ブラザー)」

「フォード。(でも、そっちのほうが似合ってますよ)」

「コロナ。(今日もおでかけするんだろ?)」

「コロナ。(いえ、もうお家に帰るんですよ)」

病室での日課も今日でおしまいです。さあ、行きましょう。退院はゴールではなく、新しいいつもの生活のためのリスタートなんですから。

 

 

 

*** いったん おしまい ***

 


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
たかさんと共に歩んだ日々は、私にとって忘れられない学びの連続でした。
あなたの心に残ったエピソードはありますか? もう一度読みたい物語があったら、ぜひ読んであげてください。たかさんも私も喜びます(笑)

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