障害者福祉の支援で使われている「プロンプト」。ご利用者さんの自立をサポートする生活支援員としては、ぜひとも使いこなしたいスキルの1つですが、いざ「プロンプトとは?」と聞かれると難しいですよね。
- プロンプトという言葉だけは聞いたことがある
- すべての支援を、ひとくくりに「介助」と呼んでいた
- 自分がしている支援のどれがプロンプトなのかわからない
この記事では、生活支援員歴15年の私が、実際の事例も交えながらできるだけわかりやすく、徹底的に噛み砕いて解説していきます。今よりももっとプロンプトを理解し、ワンランク上の生活支援員を目指しましょう!
この記事は
・研修を担当している職員さん
・新人の生活支援員さん
・中堅の生活支援員さん
におすすめです。
プロンプトとは
プロンプトは、福祉の世界だけで使われている用語ではありません。生成AIなどで入力する指示のことを指したり、舞台役者さんに次の台詞を教えてあげることを指すこともあります。
他にも、教育や療育の現場でも使われています。
障害がある人の支援で使うプロンプトとは、ごく簡単に言うと「ある行動をするための手助け」という意味です。
「相手にきっかけを伝える」のが目的である、ということをおさえておけば大丈夫です。
私が実際に関わってきたケースを例に説明します。もし、身近にいる人を思い浮かべることができる場合は、ぜひその人を頭に思い浮かべてみてください。
ケース① Aさんの場合
Aさんは、服を着替える動作が可能です。
ボタンを留める動作がやや苦手という印象を受けますが、支援者が横に立ってボタンを留める動作をすることで、Aさん自身でボタンを留めることができます。
しかし、どのタイミングで着替えればよいかを判断することが極めて苦手で、季節や気温に応じた服を選ぶことも難しい状況です。
反面、タンスの引き出しを開け、中の服を取り出す動作は可能です。特に、「この引き出しを開ける」ということが伝われば、『取り出す⇒着る』という一連の動作が1人でできることが大きな強みです。
というAさんの着替えを支援する、というケースです。
次に、プロンプトの種類についてチェックしていきましょう。
プロンプトの種類4つ
プロンプトの4つの種類について解説するために、今度はBさんのケースを例にします。
Aさん同様、本来はもう少し複雑な事例なんですが、解説用に省略しています。
ケース② Bさんの場合
Bさんは、ワンボックスタイプの送迎車の、後部座席のスライドドアから乗降しています。
乗り降りの動作は可能です。ただし、どのタイミングで乗り降りするのかを判断するのは極めて苦手で、送迎車のステップバーに足を乗せる際に動きが止まってしまうことがあります。
今回は、ステップバーに足を乗せる時に動きが止まってしまうという行動に対して、送迎車から安全に降りるために支援する、というケースで考えます。
プロンプトは大きく4つに分けられます。
これをBさんへの支援に当てはめてみます。
①声かけプロンプト ⇒ 「足をステップに乗せてください」と声をかける
②モデリング ⇒ 支援者が足のおき方の見本を見せる(降りる見本を見せる)
③身体的プロンプト ⇒ 動きのきっかけを伝えるために、足を触る
④視覚的プロンプト ⇒ ステップバーに目印となる足型のシールを貼る
これらは全て「ステップバーに足を乗せるためのきっかけ」を伝えていますが、やり方の違いをかんじてもらえたでしょうか。
プロンプトの強弱
続いてはプロンプトの強弱について解説していきます。先程のBさんのケースで出てきた4種類のうち、「声かけプロンプト」「モデリング」「身体的プロンプト」については、
「声かけ」<「モデリング」<「身体的」
の順で強くなっていきます。強弱で分かりにくければ、「支援の量が多くなる」と考えてもらって問題ありません。
視覚的プロンプトは、マークや矢印、イラストや写真などが挙げられます。いずれもきっかけを伝えるもので、他のプロンプトと比べるのではなく、マークの大きさや数などで強弱があります。
プロンプトを行ううえで大切なこと
きっかけや目的を伝えるという意味で、普段の生活の中には視覚的プロンプトの要素を持ったものがたくさんあります。
例えば、制限速度や一時停止などの道路標識は、運転に必要なきっかけや目的を視覚的に伝えています。
では、制限速度を示す標識が、10センチ間隔で表示されていたらどう感じますか? さすがに「多すぎ」「そこまで必要ない」と受け取る人が大半なのではないでしょうか。
そうかといって、標識がまったくないと「この道は何キロで走ったらよいか」がわからなくなってしまいます。
つまり、「ありすぎても困るし、なさすぎても困る」のがプロンプトです。
私たち支援者が、プロンプトを行ううえで大切なことは「ご利用者さんにとって、伝わりやすい最小限のプロンプトを見つけること」です。
プロンプトが多すぎると、ご利用者さんが混乱してしまったり、プロンプトがないと行動ができない「プロンプト待ち」の状態になってしまいます。
逆にプロンプトが少なすぎると、「きっかけがわからない」という状況が改善しません。
「プロンプト」と「介助」の違い
この章では、「プロンプト」と「介助」は違うのか? という疑問について答えていきます。
結論から言うと、この2つは全く違うものです。
プロンプトが、「ある行動をするためのきっかけを出す」のに対し、介助は「ある行動そのものを一定時間手助けする」事を指します。
「歩行」を例に出して考えてみましょう。
・自分で歩くことができるが、動き出すタイミングが掴めないご利用者さんに、移動のタイミングを伝えるという意味で仙骨(おしりの周辺の骨)あたりを軽く押す
⇒動き出す動作のきっかけを出しているので、これはプロンプトです。
・自分で歩くことができるが、転倒の危険性が常にあるご利用者さんの横について、移動先まで一緒に歩く
⇒歩く動作を一定時間手助けしているので、これは介助です。
支援者との距離感についても違いがあります。
プロンプトは「離れた場所からきっかけを出す場合もある」「タイマーなどを使った方法もある」のに対して、介助は「原則として目の前のご利用者さんに手助けする」という点が違います。
まとめ
この記事では、「プロンプトとは?」というテーマで、プロンプトの種類や強弱関係、「介助」との違いについて解説してきました。
- プロンプトとは「ある行動をするための手助け」
- 「プロンプト」と「介助」は全く別物
- 相手にとって「最小限のプロンプト」を見つけることが大切
最後にお伝えしたいのは、ご利用者さん自身の経験値の蓄積などによって、プロンプトの種類や量は絶えず変化する可能性があるということです。「〇〇さんはこの支援方法だから」という断定的な考え方ではなく、柔軟に対応していくことが大切です。
コメント