生活支援員として働いていると、腰痛が発生しやすい因子がたくさん潜んでいることを実感します。ですが、痛みを予防する方法は、意外なところにあるかもしれません。皆さんは、どんな方法で腰痛を予防していますか?
- ボディメカニクス
- 湿布薬や塗り薬
- 骨盤ベルト
もちろん、これらは単体でも非常に有効です。そこに、私が提案する「ある方法」を加えてみるのはいかがでしょう。
それは、「声かけ」です。生活介護事業所の現場で使われる声かけの技術が、実は腰痛を予防する鍵を握っていることを知っていますか? 私が実践している方法をご紹介します。
この記事は、
・腰痛の予防方法を探している人
・研修を担当している生活支援員さん
・腰痛に悩む同僚にアドバイスしてあげたい職員さん
におすすめです。
どんな時に腰痛が起こりやすい?
まずは生活介護事業所で腰痛が起こりやすいシーンを4つご紹介します。
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1)トイレ介助をする時
「トイレ介助」と一口に言っても、ご利用者さんの数だけ介助方法があります。
・車いすから立ち上がり、バーなどに捕まる動作を手伝う
・車椅子から洋式便器へ移動する
・ズボンの上げ下げなどを行う
ある程度の広さが確保されていても、トイレ内では無理な姿勢にならざるを得ないケースがあります。また、トイレ介助はご利用者さんから声がかかる頻度が多いため、腰への負担がどうしても大きくなってしまいます。
2)移乗(乗り換え)を介助する時
ご利用者さんの移乗を介助する時にも、腰痛が起こりやすいです。
- 手動式車いすから、電動車いすに乗り換える
- 車いすからベッド(ベッドから車いす)に移る
- 床に敷かれたセラピーマットへの乗り降り
他にも、様々な状況が考えられますが、ご利用者さんの体を持ち上げるような動作になるときは、注意していても腰が痛くなることが多いです。
水平に移動できる場合は、スライドシートなどを活用することである程度負担を軽減することができますが、床への移乗など、高さがある場合には腰への負担が大きくなります。
3)送迎車のフックをかける時
車いすに乗ったままで乗車可能な送迎車を運行している場合に限られますが、送迎時にも腰痛が起こりやすい因子が潜んでいます。
車いすを利用しているご利用者さんが車に乗るときは、車の床から出ているフックで車いすを固定することになります。
この時、大きく腰をかがめて手を伸ばす、かなり不自然な体制になることがあるため、力を入れることはありませんが腰が痛くなることがあります。
4)入浴介助をする時
私の職場では、通常の業務としての入浴支援はありませんが、何らかの事情で入浴を希望されるご利用者さんへの支援をすることがあります。
どうしても中腰になりやすかったり、前かがみになる動作が多いです。また、体に麻痺のあるご利用者さんを介助する場合は、不自然な体勢になることも多いため、腰に負担がかかってしまいます。
なぜ「声かけ」が腰痛予防になるのか
ここからは「声かけ」が腰痛予防になる理由をご紹介します。実際に介護しているご利用者さんを思い浮かべながら読んでみてほしいです。
①自分自身の心の準備
ぎっくり腰を経験された皆さんならご理解いただけるかもしれませんが、腰痛は何の前触れもなく突然起こります。
声かけはご利用者さんのためだけにあると思いがちですが、実は自分自身の心の準備をするという意味もあります。
「今から体を持ち上げます」
「1、2の3で動きます」
など、声かけをすることで、ご利用者さんだけでなく、自分自身も「介助モード」に入ることができ、腰痛の予防に繋がります。
②ご利用者さんの心の準備
もし、アナタが介助される側だったとして、何も声をかけずにいきなり介助されたらびっくりしてしまいませんか?
声かけは、ご利用者さんが「今から何をするのか」を理解するのに重要な役割を担っています。
介助者が動かそうと思っている方向と、ご利用者さんが動かされると思っている方向が違うと、思わぬ事故に繋がる場合もあります。声かけをすることで、ご利用者さんに心の準備をしてもらうことが、結果的に支援者の腰痛予防につながります。
③お互いの負担が減る
少し想像しにくいかもしれませんが、同じ体重のご利用者さんでも「体に力が入っている」か「脱力状態」かによって、重さの感じ方が全然違います。
あくまでも私個人の感覚ですが、脱力状態のほうが倍くらい重さの違いを感じることさえあります。
例えば、車椅子から抱き上げるようにして移動する際、「動きます」と声をかけ、ご利用者さんに少しでも力を入れてもらうことで、脱力状態よりも力を伝えやすくなります。
介助に必要な力を少しでも減らすことができれば、それだけで腰痛のリスクを軽減できます。
ワンランク上の声かけのために
ご利用者さんに声をかけ、介助しようとしたけれど、今ひとつタイミングが合わなかった。という経験はありませんか? その場合は、ご利用者さんの「気持のいい数字」と支援者の「タイミングの声かけ」が噛み合っていないのかもしれません。
Aさんは「3」のまとまりが好き
Bさんは「2」回くり返すことが多い
Cさんは「4」カウントで動いている気がする
など、ご利用者さんと日々関わっていると、1人ひとりに「気持ちのいい数字」があるな、と感じることがあります。
ご利用者さんの様子を観察したり、他の支援者と話をする中で、対象となるご利用者さんの「気持のいい数字」をつかむことができれば、声かけに活かすことができます。
そして、タイミングがバッチリ噛み合う声かけを身につければ身につけるほど、スムーズに介助することができ、腰痛を予防することができます。
カウント別の声かけ例
ご利用者さんの「気持ちのいい数字」を知っておくと、立ち上がる時のリズムが格段に合わせやすくなります。
「椅子に座った状態のご利用者さんの手をサポートし、声かけで立ち上がってもらう」というシーンを思い浮かべて下さい。
↓ハイ、で立ち上がりの動作をしてもらう、と思ってもらえればOKです。
①「2」がしっくりくるご利用者さん
「せ〜の(1)、ハイ(2)」
②「3」が気持ちいいご利用者さん
「イチ(1)、ニ〜の(2)、ハイ(3)」
③「4」が好きなご利用者さん
「イチ(1)、ニの(2)、サン(3)、ハイ(4)」
慣れないうちは難しいかもしれませんが、ご利用者さんの気持ちがいいタイミングに合わせて声かけを変えます。
立ち上がりのための介助方法などは別に必要です。ですが、「今ひとつタイミングが噛み合わない感じがする」という場合には、試してみて損はない方法かもしれません。
小さな技術の積み重ねで、結果的に腰痛を予防していきましょう。
まとめ
今回は、「声かけ技術がもたらす腰痛予防方法」というテーマで、声かけと腰痛予防の関係や、ワンランク上の声かけのコツなどについて書いてきました。
- 腰痛に発生しやすい状況を知ることも大切
- 声かけで、支援者もご利用者さんも心の準備をする
- 「気持のいい数字」を知り、ワンランク上の声かけ技術を獲得する
最後に私が実践している、声かけと一緒にやっている腰痛予防法をご紹介します。
・「腰をかがめる」のではなく「足を肩幅より広げて大きく腰を落とす」
⇒ご利用者さんと体をくっつければくっつけるほど、力が伝わりやすくなるので、「手の力だけで引っ張るような動き」はできるだけ避けるようにしています
・ストレッチしてから動く、途中で腰を伸ばす
⇒体が固まっていると痛みが出やすいので、急に動かないようにしたり、痛くなくても意識的に腰を伸ばしたりしています
・カイロを使って腰を温める
⇒ロッカーに貼るタイプの使い捨てカイロを入れてあるので、冷え込みが強い時などには使うようにしています
声かけ技術と組み合わせ、是非アナタにピッタリの『腰痛予防方法』を見つけて下さい。
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